チャチャ登り
函館に戻り住み1年8ヶ月が過ぎた。もうストレンジャーではなく、市民として住んでいるつもりだ。この期間、仕事上でもプライベートでもかなり多くの人と話した。
プライベートでの会話は、楽しく話すのが元々好きであるので、相手も気楽になれるように努めて話しているせいもあり、また自分もリラックスしているので心地良い時間を過ごすことができている。だが、仕事で知り合う方々との関係で、どうしてなのだろうと首を傾げることがしばしばある。
仕事上で知り合うということは、営業と客という関係での出会い方だ。つまり利害で成り立っている関係である。この点に関して、今私は大きく考え方を変えなければならない必要性に迫られている。
どういうことかというと、今までで学んだ「仕事がスムーズに進む接客方法」が通用しないからだ。
例えば、道内他地域では、必要な時に必要な接触を行い、次の約束をしたら互いにそれを遵守するという関係で商談を進めることができた。もちろん全部が商談成立するわけではなく、他社で決められることもある。それは仕方のないことだ。自分の交渉が悪ければ反省しなければならないし、先方のニーズがどうしても合わなければ諦めざるをえないこともある。この失敗を繰り返し、学び、時とともにより多くの顧客に対応できるようになって成約率も高くなっていく。
そんな具合でやってきた。お陰でそれなりの売上も達成することができた。
ところが、函館はそれが通用しない。約束をしてもそれが守られないことが多くある。
例えば、今度の金曜日に電話します、それで都合のいい時間を確認してお伺いしてもよろしいでしょうか?と、問い、先方からOKをいただいたら、こちらはその約束を遵守して、当日に電話をする。ところが何度電話をしても出ないのだ。それも携帯電話でもだ。こんなケースが驚くほど他地域より多くある。
気が変わったとか、やっぱり話を進めたくない、私が嫌いだ、あるいは能力がないから期待できない等の理由があるのなら、堂々と電話に出てその旨を話せばいいのに、なぜか電話に出ない人が多い。
他地域ではレアなケースだ。約束をしていないなら別だが、約束をしているのにどうしてなのだろうか?考えてみた。
函館は「しがらみ」が多い街である。人の目や声を気にする人も多い。鬱陶しいと思ってもこなさなければならない人間関係が多数存在する。本当はそんな面倒なことから逃避したいのだが、だからといってまともにそんなことを相手には言えない。人間、そんな抑圧があればどこかでそれを実現しようと無意識で考える。それができるのは関係性が脆弱で、立場的に優位に立てる「客」という立場だ。それゆえに無視をする、という場合と、逆にしがらみの多い中で、堂々と言葉で断ることができないから電話に出ないという場合だ。
いずれにしても、対人関係においては「いい顔をしたいから」断ることができなかったり、その反動の無視をしたりすると推測される。
売れている営業はこれを逆に利用する。もっとも有効にその力を発揮するのが、何度も登場した「しがらみ」だ。しがらみの営業は自分の対面を守ろうとする人には有効だ。しがらみといっても、実際にその関係でなくともいい。しがらみに弱い心理体質を利用するだけでいいのだ。函館ではこれでけっこう売れているようだ。純粋に商品やサービスを比較して、自分にとっての利益がどれだけあるかなどで判断するわけではない。
この体質は、より良い商品やサービスを誕生させない。利害関係のある相手との良好な付き合いを重んじているだけで商売が成り立つのであれば、商品・サービスの向上の必要性はなくなる。逆に言えば、しがらみ(ないし、しがらみ心理体質の利用)を上手くやれば、質が悪くても売れるのだ。
「顔を知っている相手」だけに通用する手法だ。だが、これは全国では通用しない。商品・サービスが良くなければ、しがらみのない人には受け入れてもらえない。函館にはこの視点を持たず、ずっと市内だけでちょっと規模が大きくなったらそこで満足してしまう企業が過去にも現在にも嫌というほど存在している。それに気付いている者も多いかもしれない。しかし、目に見えない未知のユーザーよりも、普段顔をあわせる者だけを大切にする気質を改善しない限り、函館から大企業は決して生まれたりしないであろう。なぜなら、函館以外では、しがらみ営業は通用しないからである。
もちろん大企業があれば単純にいいというわけではない。中小で地道に長くやっているところも好感を持てる。だが、残念なことに、本州や札幌から企業・店舗が進出してくると、体力や能力で劣る地元企業はあっさりと白旗をあげなければならなくなる。
一例をあげよう。私が以前住んでいた新潟県には、県内発祥の「ムサシ」(社名、アークランドサカモト)とコメリという巨大ホームセンターが2社もしのぎを削っている。両社とも東証一部上場企業だ。この2社の圧倒的商品提供力によって、関西などからホームセンターが進出しても、地元民からすると、「そんなのあった?」という程度の認知度しか持たれなくなってしまっている。
札幌から関東附近まで進出を果たしているホーマックも、隣の山形県までで進出を止めている。新潟県には進出していない。結果がはっきり見えているからだ。そのくらい両社は巨大であるし、客として訪れても、両センターとも甲乙付けがたい魅力を感じてしまう。北海道に戻ってきて、道内のホームセンターには今でも物足りなさを感じてしまうのは、この2つを知ってしまっているからだと思う。
最初の話からは大きく外れてきたように思うかもしれないが、ちゃんと関連性はある。企業を作り運営するのは地元民であり、その地域環境も企業を育てる上で重要なファクターとなる。函館市民がしがらみや顔を知っている者にだけ好対応するという習慣や強迫観念から脱出できたなら、そこから違う世界が見えてきて、そのうち大企業が誕生するかもしれない。結果的にそれは地元の経済を守ることでもあるのだが。
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